災害時の備え、防災井戸!防災井戸の役割・疑問を、まるっと解説!
- 目次
- 1. 災害時の井戸の必要性、及び過去の震災時に井戸が役だった例
- 1.1 炊事・洗い物
- 1.2 洗濯
- 1.3 トイレ
- 1.4 防火用水
- 1.5 炊き出し
- 1.6 飲料
- 2. 「災害時協力井戸」について
- 2.1 補助金が出る場合もある?
- 3. 災害時のための井戸に必要な条件
- 3.1 利用目的に必要な水質を満たしていること
- 3.2 井戸枠などが設置された安全な井戸であること
- 3.3 井戸にポンプがついていること(できれば手押しポンプ)
- 3.4 井戸水を汚染する要因となるものがないこと
- 4. 首都圏で防災井戸を掘っても、放射性物質は問題ない?
- 4.1 水質検査をしましょう
- 5. 防災井戸に浅井戸・深井戸どちらがよい?
- 6. 防災井戸の設置に届け出は必要
- 6.1 手続き方法
災害時の井戸の必要性、及び過去の震災時に井戸が役だった例
地震などの自然災害は突然やってきます。災害の規模によっては、命にかかわる事態に陥ることもあり、事前に十分な備えをしておくことが望まれますが、必ずしもその備えが十分であるとは限りません。
大震災によりライフラインが途絶え、街はパニックに陥り、不自由な生活が強いられたのはいうまでもありませんが、特に、人々の命にかかわったものが水です。飲料水には、備蓄してあるペットボトルが役立ちましたが、問題は生活用水です。ペットボトルは、あくまでも飲料のための水であるため、生活用水に使用するほどのストックはありません。
水不足により、不衛生な環境が生まれ、多くの震災関連死を引き起こしたそうです。汚いトイレの使用を控えるために水を我慢したことが原因で、心筋梗塞や脳梗塞で亡くなった人の数は、約900人。水さえあれば、この人たちは生き延びることができたかもしれません。
このような状態を救ったものが井戸です。井戸の水を使用することができたところでは、多くの人々が救われたそうです。その具体的な事例をご紹介します。
炊事・洗い物
生活するためには、食器などを洗う水が必要です。井戸水が使用できたところは、かろうじて衛生を保つことができたようです。
洗濯
洗濯機数台とともに井戸を解放した例があったそうです。避難者は数人の行列をつくり、活用されました。
トイレ
現在のトイレはそのほとんどが水洗であるため、多くの人が集まる非難所では、大量の水が必要になったといいます。あまりきれいとはいえない井戸の水を使ったり、炊事、洗濯などに一度使用した井戸水を再利用したりして使用したそうです。
防火用水
地震により火災が発生し、バケツリレーで燃え広がる火を消し、大火災を食い止めることができた事例がありました。
炊き出し
駐車場近くにあった井戸が、炊き出しのために利用された例があります。多くの人の食料として役だったそうです。
飲料
多くの井戸が、飲料以外での使用に限られた中で、飲み水として使用された井戸もありました。震災前から安全性が確認され飲み水として使用されていたもので、周囲の下水管破裂による汚染も考えられなかったため、飲料に使用されました。ごくまれなケースといえます。
「災害時協力井戸」について
災害時に備え、各地で災害時協力井戸を準備する動きが広まっています。たとえば、災害時など、断水したときに協力できる井戸の所有者に、あらかじめ登録してもらえるよう、協力を募る自治体が増えているのです。
登録できる井戸は、地域によって若干基準が異なりますが、基本的に現在井戸として使用していることが条件となります。最近は、井戸が少なくなってきており、特に東京近郊は、井戸そのものが少なくなってきているため、深刻な問題となっています。
葛飾区、目黒区、練馬区、大田区、荒川区、世田谷区、千代田区、杉並区、町田市、多摩市、日野市などがホームページなどで協力を求めています。
補助金が出る場合もある?
災害時の水不足の打開策として自治体が注目しているのが「災害協力井戸」です。災害で断水した際には、市区町村に登録された災害協力井戸の所有者が近隣の住民に飲料水や生活用水を提供します。
そのため、お住まいの地域によっては災害協力井戸に指定された場合、手押しポンプの設置や井戸の維持にかかる経費を補助金で賄うことも可能です。たとえば東京都武蔵野市では災害対策用井戸の維持管理のために1件あたり年間9,000円の補助が受けられます。神奈川県藤沢市ではポンプの設置や交換、修理を行う際に費用の2分の1以内(上限50,000円)の補助金が交付されます。
災害協力井戸に指定されれば少ない自己負担で井戸の設置や維持管理ができるかもしれません。まずはお住まいの自治体のホームページなどで調べてみましょう。
災害時のための井戸に必要な条件
井戸を掘っても災害時に必ずしも使えるとは限りません。水質が悪ければ生活用水として使えない場合もあります。土壌によっては大腸菌などの細菌や硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、塩化物イオンなどの物質が多く含まれていることがあります。そういった土壌の井戸水は飲料水として使えません。また、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンといった有機溶剤が含まれている場合もあります。
井戸水の水質は、もともとその土壌がもつ性質で決まることもあれば、工場や農地が近くにあるなどの立地によって左右されることもあります。
1利用目的に必要な水質を満たしていること
- PH 5.8以上8.6以下
- 臭気 異常がないこと
- 色度 5度以下
- 濁度 2度以下
2井戸枠などが設置された安全な井戸であること
誰もが安全に利用できる条件の整った井戸である必要があります。
3井戸にポンプがついていること(できれば手押しポンプ)
災害時は、水道だけでなく電気もストップしますので、井戸があったとしても、電気を利用するポンプでは水を汲み出すことはできません。そのため、手押しポンプが役にたちます。
4井戸水を汚染する要因となるものがないこと
いざというときに、井戸は人々の命を助けます。災害が起こる前に備えておきたい大切なものといえるでしょう。
首都圏で防災井戸を掘っても、放射性物質は問題ない?
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故で地下水の放射能汚染が危惧されていますが、首都圏に井戸を掘削した場合、水に放射物質が含まれているのでしょうか?
環境省の『放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成28年度版)』によると、放射性セシウムは粘土鉱物に吸着する性質があって、ほとんどが土壌の表層部にとどまるそうです。また、ヨウ素も地中深くに浸透しないとのこと。そのため、井戸水が汚染されている危険性は極めて低いそうです。
実際に福島第一原子力発電所の事故後、福島県では飲料井戸水の調査が行われしたが、放射性セシウムが井戸水から検出された例はありません。よって、首都圏の井戸水が放射能で汚染されている心配もないと思われます。
水質検査をしましょう
とはいえ、絶対に安全とは言い切れません。たとえば激しい雨などで放射性物質が付着した表層の土壌が井戸に直接流れ込んだり、大気中の放射性物質が落下して井戸の中に侵入したりすると、井戸水が汚染される場合があります。
環境省は井戸水が汚染されている危険性は極めて低いという見解を示していますが、用心するのに越したことはありません。井戸を設置する際には、放射性物質が含まれていないかも含めて水質検査をされることをおすすめします。
防災井戸に浅井戸・深井戸どちらがよい?
私たちが立っている地面の下は、地下水が存在する透水層と、存在しない難透水層がいくつも重なり合って構成されています。井戸は透水層から水を汲み上げる仕組みです。
地表から一番近い透水層は深さ10~20メートルのところにあります。この透水層から地下水を汲み上げる井戸が「浅井戸」です。それよりも深層にある透水層から地下水を汲み上げる井戸を「深井戸」と呼びます。
先ほども解説したように、放射性物質は粘土層に吸着する性質があるため、地中深い透水層の水であれば放射能汚染のリスクは低くなります。他の有害物質についても、粘土がフィルター代わりになるので、深いところに存在する地下水ほど安全性が高くなる傾向があるのです。
よって、防災井戸を掘削するのであれば深井戸をおすすめします。
防災井戸の設置に届け出は必要
地震などの災害時にライフラインとして有用な災害用井戸。各自治体も災害協力井戸の確保を推進していますが、一方で井戸を無尽蔵に掘削すると地盤沈下など別の災害を引き起こす恐れもあります。
そのため、掘削工事や地下水の引き上げに関しては法律や地方自治体の条例などで規制が敷かれていて、井戸を掘削する際には届け出が必要です。
手続き方法
井戸水を汲み上げるパイプの直径が約2.7cm以内であればほとんどの自治体で届け出が不要ですが、それ以上の場合は届け出が必要です。まずは計画の段階で水道局や市役所に連絡しましょう。
そもそも井戸の掘削が禁止されている地域では井戸を掘ることができません。井戸の掘削ができる場合でも、届け出が必要です。役所の担当者が掘削作業などに立ち会うケースもあります。
飲料水として利用する場合は保健所への届け出が、下水へ排水する場合は下水料金がかかるため公共下水道の使用開始の届け出が必要です。
規制や必要な手続きは自治体によって異なります。まずはお住まいの地域でどのような規制があるか、どのような届け出を行う必要があるのか確認してください。
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